以下の歌訣を董海川伝来の秘伝と言っている人もいるようであるが、実際のところは、三代目の弟子が作成したもののようである。文章そのものは秘密にしなければならないようなすごいものではないと思う。
 そもそも、こういうものは、師が弟子に渡す記念品みたいなものである。関係のない者にとってはただのガラクタのようなものである。
 ここに書かれているようなことを師について体得することが最も重要(秘伝)なのであって、ただ歌訣を知っていたとしてもそれだけではどうにもならないし、知らないと八卦掌ができないわけでもない(実はそういうことは、歌訣の最後にちゃんと書いてある。)。
 日本のある武道の教本にも、「絵にも文にもならない。師について会得のこと。」と大半の技について書かれているものがあるが、そういうようなものである。
 とは言え、なかなかの名文と思う。かなり教養のある人が作ったのだろう。参考までに翻訳してみるが、ここに書いてあることを体得するのは容易ではないことだ。




八卦掌三十六歌訣


1  空胸拔顶下塌腰 扭步搿膝抓地牢.
   沉肩坠肘伸前掌 二目须冲虎口瞧.


   胸を空にして、頭をまっすぐにし、重心を下におろし、体を安定させる 円を描いて歩き、膝を合わせ、足はしっかり地面をつかむ
   肩、肘を下ろし、前の掌を伸ばし、両目は人差し指と親指の間から前を見る


2  后肘先叠肘掩心  掌在翻塌向前跟
   跟到前肘合抱力  前后两掌一团神


   後の肘は先に折りたたみ、心を守る 掌は翻して、下をおさえ、前の肘につける
   前の肘とともに合わせる力を出し、前後の掌は協調する



3  步弯脚直向前伸  形如推磨一般真
   屈膝随跨腰扭足  眼到三面不摇身

   歩は円を描き、足はまっすぐ前に伸ばす 姿は挽き臼を回すごとくにするのが正しい
   膝は曲げ股腰は足の回転に従う 目は左右前方を見、体は揺らさない


4   一式单鞭不为奇  左右循环乃为宜
   左换右兮右换左  抽身到步自和机


   片側の技だけ出来ても優れてはいない 左右どちらも入れ替われるようにしなくてはならない
   左右に動いて、身歩を引くことができれば、自ずと相手の隙を伺うことができる

 
5  步即转兮手亦随 后掌穿出前掌回
   去来来去无二致 要如弩箭离弦飞

  
   歩が出れば、手はそれに従う 後の掌を突き出せば、前の掌は戻る
   前後の掌の動きは一致する 弩弓の矢が弦から放たれるがごとくに素早くなくてはならない


6  穿时掌贴肘行  后肩改前肩成
   莫要距离莫犹豫  脚入裆兮是准绳


   穿掌は、まっすぐ肘の下につけて出す 後の肩は前の肩に入れ替わる
   距離は必要とせず、一気に打ち出す 足は相手の中門に入れる、これが正しい方法である


7  胸欲空兮气欲沉 背紧肩垂臂前伸
  气到丹田缩谷道 直拔颠顶贯精神



   胸を空にし、気は沈める 背をまっすぐにし肩を下げ手は前に伸ばす
   気は丹田に沈め肛門を閉める 百会穴をまっすぐ上に向ける これらはすべて意識に貫かれてなくてはならない。


8  走时周身莫动摇 全凭膝下两相交
   低盘虽讲凭膝胯 中盘也是下腿腰


   歩くときは全身をグラグラさせない すべては足を基盤にし、、膝の下は交わる。
   下盤(低い姿勢)は足腰の功力であるが、中盤(中くらいの姿勢)もまた同じである。


9  抿唇闭口舌顶腭  呼吸全凭鼻孔过
   力用极处哼哈泄  混元一气此为得


   唇を閉じ、舌先は上顎につけ、呼吸は鼻からする
   力を出すときは、鼻からフンッ、または口から、ハッの音を発する 根元的な力はこうして得られる


10 掌形虎口要撑圆 中指无名裂缝开
   先戳后打施腕骨 松榜长腰跟步钻

   掌、虎口は丸くする 中指薬指の間は開く
   先に突いてから掌根を相手に当てる 腕肩の力を抜いて腰を伸ばし、歩は螺旋を描く


11 上步合跨倒步掰 换掌换式矮身骸
   进退退进随机式 只要腰腿巧安排


   (体を返す時)足を出すときは股が合わさり、足を戻すときは股が分かれる 掌式を換える時は、体を縮める
   自由自在に状況に応じて前後に動くが、足腰は充分にしっかりしてなくてはならない。


12 此掌与人大不同 进步抬前乃有功
  退步还先退后足 跨步尽外要离中


   八卦掌が他の武術と大きく違うところは、 前の足を上げて前進するときに功力があることである
   下がる時は後の足から下がる。歩を進めるときは、可能な限り外へ向かい、正面を避ける。


13 此掌与人大不同 手未动兮膀先攻
   未从前伸先后缩 吸足再吐力独丰

   八卦掌が他の武術と大きく違うところは、手が動く前に先に肩が攻め入ることである。
   前に伸ばす前に先に後に縮こめ 足を引いてから押せば、大きな力を得ることができる。


14  此掌与人大不同 前掌后手力相通
    欲使稍兮先动根 招招如是不得松


    八卦掌が他の武術と大きく違うところは、前の掌と後の掌の力がつながっていることである。
    梢の先を動かそうとする場合まず根から動くように根本から動かす すべてがこのようであり、散漫になってはならない。


15  此掌与人大不同 未击西兮先声东
    指上打下孰得知 卷珠倒流更神通

    八卦掌が他の武術と大きく違うところは、東で声を発してそちらにいると見せかけ、実際は西を撃つことである。
    上を指して下を打てば、相手は攻撃の予測が出来ない。更に下から上へ打てば、神秘的とも言えるようになる。


16  天下精术怕三穿  不走外门是枉然
    他走外兮我走内  伸手而得不非难


    天下の優者も三穿掌を恐れる しかし、これは側面から行わなければ効果がない
    敵が側面に入れば、こちらは正面に入る そうすれば手を伸ばして攻撃して勝利するのは難しいことではない。


17  掌使一面不为功  至少仍需两面通
    一横一直三角手  使人如在自怀中


    掌の使い方は平面的ではいけない 少なくとも2つの平面を動く立体的なものでなくはならない
    手は三角形を成し 相手を思うままに扱えるようにする
 

18  高欲低兮低欲扬  斜身绕步不须忙
    斜翻倒翻腰着力  翻倒极处力又刚


    相手が自分より背が高いときは下を攻め、逆の場合は上を攻める 斜身し、歩が円を描く八卦掌の歩法を使えばあせる必要はない
    翻すときは腰の力、剛の力がなければならない


19  人道掌法胜在刚  郭老曾言柔内藏
    个中也有人知味  刚柔相济是所长


    人は掌法の核は剛にあると言う 郭先生は曾て剛の中に柔があると言った
    理解できる者には理解できるである 剛と柔を併せ持つことが重要であることを
    (郭先生が誰なのか諸説あるようであるが、私は仮にこの歌訣が創始者の何某かの言を伝えていると考えるならば、これは形意拳の郭雲深を指すのだろうと考えている。)

20  刚在先兮后柔藏 柔在先兮刚后张
    他人之柔腰与手 我则吸腰步法扬


    柔の力が出る前には剛でなければならず、剛の力が出る前には柔でなければならない
    腰と手のみを使って柔の力を出す者が多いが、私は腰と歩で柔の力を出す


21  用到极处需转身 脱身化影不留痕
    如何变化端在步 出入进退腰先伸

    招式の終端にて身を翻す 体の有ったところは影になり跡は残らない。
    どんな変化も歩からである 出入、進退も腰が先に動く


22  转掌之神颈骨传 转项扭项手当先
    变时缩颈发时伸 要如神龙首尾连

    八卦掌の力は体の中心を伝わるものである 首の動きの先に手があるのである。
    変化するときは首が縮まり、力を発する時は首が伸びる 龍の首と尾が連なっているようになっていなくてはならない


23  打人凭手膀为根 膀在肩端不会伸
    欲要进时进前步 若进后不枉劳神

    相手を打つ時は二の腕から打つ 二の腕は肩から伸ばしてはならない
    相手に向かって入る時は、前の足を進める もし、後の足から入ると相手に乗じる隙を与えることとなる


24  力是发自筋与骨 骨中出硬筋相随
    足跟大筋通脑脊 发招跟步力能摧


    力は筋肉と骨から出てくる 骨からは硬の力が出て、筋肉がこれに相伴う。
    踵から筋肉の力は脊髄を通ってゆく 招法の力は歩を進めることによって出てくる


25  眼到手到腰腿到 心真神真力又真
    三真四到合一处 防已有余能胜人


   目が到る所に手が到る、手が到るところに、腰が到る、腰が到る所に、足が到る(四到) 心と意識が正しいものであれば、力も正しいものとなる(三真)
  三真と四到がひとつになれば、自分を守るだけでなく、ついには相手を倒すことができる


26 力要刚兮更要柔 刚柔偏重功难收
   过刚必折真物理 优柔太盛等于休


   力は剛が必要であるが、より柔が必要である。 剛と柔いずれかに偏るのはだめである
   剛が強すぎれば折れてしまうのは物の道理であり、柔が強ければ崩れてしまう


27 刚柔相济是何言 刚柔相辅总无难
   刚柔当用乾坤手 掀天揭地海波澜


   剛柔相済とはどういうことか 剛と柔がそれぞれ補い合ってすべてにおいて難なきを得ることだ
   剛柔は乾坤手において使われて、天地を揺るがす大波のような威力を持つ


28 人刚我柔是正方 我刚人柔法亦良
   刚柔相遇腰求胜 解此纠纷步法强


   相手が剛で来たときこちらは柔であるのは正しい方法である。こちらが剛の時、相手が柔であるのもまた優れている
   剛と柔が向かい合うときは腰の動きに勝機を求る このようなぶつかり合いの時、重要なのは歩法になる


29 步法动时要先提 收缩合宜显神奇
   足欲动时腰不动 跄踉迈去误时机


   歩が動くときは、先に腰が反応する 胯が適切に動けば神秘的な動作が顕現する
   足が動くとき腰が動かなければ よろめいて動くことになり、機を失する


30 转身变法步莫长 擦地而行莫要荒
   看谁来势方伸手 巧女穿针稳柔刚


   身を翻し構えを変えるときは、歩は短くする 摺り足で進み、むやみな動きをしてはいけない
   誰が向かってくるのかを見極め手を伸ばす 熟達した針子の針が静かにやわらかく力を通すがごとくにである


31 人持利器我不忙 飞剑遥遥到身旁
   看他来路哼哈避 邪不胜正语颇良


   相手が武器を持っていても私は慌てない 剣が振られ身のそばに来ようと
   その動きを見て、フンハッの気で避け反撃する 邪は正を侵さずと言う言葉はまさしく正しいのだ


32 短兵相接似难防  哪怕锋利似鱼肠
   伸手来取囊中物  指山打磨妙中藏


   短兵器を持つ相手に相対した場合、防ぎがたいように見える しかし、魚腸剣のような鋭利なものでも恐れる必要はない
   手を伸ばし、懐の物を取る秘訣は 山を指しながら、下の石を磨くような戦術の中にある。
  


33 人众我寡力难挡 巧破千钧莫要忙
   一手不劳凭指力 犁牛犹怕反弓张


   相手が多数でこちらが少数で相手の力を防ぎようがない時、焦らず技術をもって大きな力を破るべきある
   うまく対処すれば指の力だけでも対処できるのである あたかも犂牛が引かれた弓を恐れるがごとである。



34 伸手不见掌前伸 又无油松照彼身
   收缩眼皮努眼看 底盘掌使显神奇

  
  
  手を伸ばしても掌が見えないくらい暗く、相手を照らす松明の明かりもない時
  目をすぼめて目を凝らし、低い姿勢をとれば、力を発揮できる

 

35 冰天雪地雨泞滑 前脚横使切莫差
   翻身切忌螺丝转 高低紧避仍为佳


   地面が凍ったり雪が降ったり、雨でぬかるんでいるときは、前足は横に出すのが失敗はない。
   体を翻す時はねじのように回転してはならない。地面の高低にに注意し、障害物を避けるのが重要である。


36 用时最要是精神 精神焕发耳目真
   任凭他人飞燕手 蚁鸣我听虎龙吟


   用いるときに最も重要なのは精神である。精神が渙発すれば、耳目は利発になる。
   相手の動きがツバメのように素早くとも、こちらは蟻の小さな鳴き声が虎や竜の雄叫びのように聞こえるかのようにように、相手の動きが手に取れるのだ


歌赞  掌法拳法与岳议 传出日久或忘记
     我歌我歌三十六 字字句句有真意


     この掌法拳法は九華山で研究したものである。伝えても月日が経てば忘れられてしまうかもしれない。
     そのため私は三十六の歌にまとめた。一字一句に真実が含まれている。


翻訳者注:董海川は字の読み書きが出来なかったと伝えられている。そのため、この歌賛からして、この歌訣は董海川の作ったものでないことを示していると思う。


四十八歌訣


1 (身法)

手法步法要相随 手到步落力必微
手脚俱到腰欠力 去时迟慢难抽回


手と足の動きは連動したものでなければならない 手を出してから歩が出るようでは力を出すことはできない
手と足の動きが連動していても腰の力を欠くならば、進むに緩慢で、退くのも困難になる


2(相法)

对御群敌相法先 未曾进步退当然
退步审势如变化 以逸待劳四两牵


群をなした敵と対峙するにはまず相手を観察することである 進む前に退くことができるかを考えなくてはならない
退く時には相手の勢いがどう変化するかを観察する 鋭気を蓄えて相手が動くのを待てば、わずかの力で相手を崩すことができる
 

3(歩法)

未从动梢先动根 手快不如半步跟
出入进退只半步 制手避招而安神


身体の先端が動く前に、根幹部分が動く 手の動きが速くとも半歩の動きには及ばない
半歩の進退で、相手の手、技を制することができ、平静でいることができるのだ

4(邁法)


功夫本从弯步来 两手变化随步开
高挑低搂横掩避 推托带领不离怀

八卦掌の力は円を描く歩法にある 両手の変化は、歩の動きに随う
高く跳ね上る、低く引き込む、横にかわす、押す、持ち上げる、引き込む、流す、すべてにおいてそうなのである



5(連歩法)

连步必三费功夫 使手要简自然无
搭手转手是空手 机会恰巧是江湖


歩を連続させるには相当の修練が必要である 手を出すときは招法にとらわれず、無にならなくてはならない。
相手と手を合わせ、手を旋回させると、相手の力は空になる 経験を積むことにより機会をうまくとらえられるのだ。



6(囤法)

固步不要两相齐 前虚后实差相宜。

若要站齐前后仰 亦且腰短少灵机。


歩を固定するときは両方の歩を同じにしてはならない 前足が虚、後ろ足が実の違いがなくてはならない
もし、両方の歩が同じ状態で前後に身体が傾けば、腰が不安定になり、素早い動きができなくなる。



7(手法)

偏重则随双重滞 外硬里软站拈枪势。

横推里勾身有主 只有吸手腰腹随。



重心が両方の歩にあれば、相手の動きについてゆけない 槍を使うときのように、外面は剛になっていても内面は柔でなくてはならない
身法が主となり相手を横に押し、中に引っかける 腰部や腹部の動きがあって初めて相手の力を吸収できるのだ

(訳者注)
槍の姿勢が挙げられていると言うことはこの歌訣は尹福の弟子が作ったのではないかと思う。


8(力法)

人说冷弹快硬脆 我说冷弹是一般。

脆硬细分无二致 发动全凭心力含。


人は勁を冷弹快硬脆の五文字で表す 私が思うに、冷弹快は同じだ
脆硬もよく見れば異ならないものだ すべて心と力を含んだ協調した力なのだ


(訳者注)
冷弹快硬脆は尹派の特徴とされているので、やはりこの歌訣は尹福の弟子が作ったのではないかと思う。



9(存力法)

只会使力不会存 力过犹如箭离弦。

不但无功且有害 轻输重折而伤身。


弓から放たれた矢のように、力を使い切ってしまえば、
次の力が残っていないだけでなく危険である 軽い者は飛ばされ、重い者は自分のバランスを失うことになる



10(続力法)

力着他人根已断 如再续力彼难逃。

此时惟有冲前步 长膀长腰一齐交



力を加えて相手を崩した時、もし続けて力を加えれることができれば、相手は逃げられない。
この時は招式を変えず歩を進めるだけだが、身体全体の力が必要である



11(降人法)

快打慢兮不足夸 强制弱兮不为佳
最好比人高一招 顾盼中定不空发


速い者が遅い者を打てても賞賛に値しないし、強い者が弱い者を制してもすばらしいことではない
技術が上であることが重要なのである 状況に応じて力を発し無駄なことをしないのである。



12(決勝法)

彼力千钧快如梭 避强用顺快不挪。

千人只有三五近 稍伸手脚不难遮。

相手の力が強大で動きが速くとも、順の力を使えば避けられる
相手が大勢でも実際に近づけるのはせいぜい数人である 少し手を足を動かせば制するのは困難でない。



13(用法)

高打矮兮矮打高 斜打胖兮不须摇
若遇瘦长凭捋带,年迈无功上下瞧


背の高い者を相手にする時は、下を攻め、背の低い者を相手にするときは上を攻める 体格の良い者に対しては斜めに攻め、相手を揺さぶらない 
もし痩せている者を相手にするときは相手を引きずりこむ 歳をとって力のないものを相手にするときは上下をにらめば十分である



14(封閉法)

手讲三关脚伸屈 一手三关脚直遇。

肩肘腕胯膝可用 缩颈空胸步带躯。



手には関節が3つあり、脚は屈伸する 手の関節に対して脚は直進する
肩肘腕胯肘すべては武器となる 首を縮め胸を空にし歩が身体を動かす


15(接拳法)

五花八门乱如麻 长拳短打混相加
你越快兮我越慢 我若发时神鬼夸。


世にはいろいろな門派が溢れ、長打短打多種多様な技を研究している
しかし、相手が速く動けば動くほど、私はゆっくりに対応する 私が力を発する時に、神や鬼のようになれればそれで終わりなのである。

16(摘解法)

多少拿法莫夸技 两手拿一力固奇。

任他神拿怕过顶 穿鼻刺目势难敌。


関節技はたいしたことがない 相手が両手で強力な関節技を使ってきても
その技が相手の頭上より上がるのにまかせ、目や鼻を突けば相手はどうすることもできない。


17(接単補双法)

莫说两手仗坚兵 一来一往是其能。

闭住右手左无用 双手齐来更无功。

 

相手が両手に武器を持っていいても、基本的に片方ずつ攻めてくる。
右手を制すれば、左手は使えなくなる。両手で攻めてきたときに片方の手を制すればもう片方の手はさらにどうしようもなくなる




18(指山打磨法)

他人来手我不然 侧身还击彼自还。

他若还时我入手 他若封时三手连。



敵が先に打ってきたとき、私は入り身をし、相手に打ち返せば、相手は自ずと崩れる
もし敵が引いたときは、私は攻め入る 敵が守りを固めていたら、私は三連打をする。

19(脱身化影法)

他不来时我叫来 他要来时我化开。

不须手避凭身法 步步不离两胯哉。


相手が攻めてこないときは、私は相手を誘う 相手が攻めてくる時、私はその力を吸収する
相手を制するときは手でなく身法を使う、歩は胯と協調しなくてはならない


20(背后転身法)

伸手要小步要大 开不半胯贴身抓。

跨步落地蹲身转 他要转时我鹰拿。


手を出すときは動きは小さく歩を大きくする 半歩の動きで相手に密着し、相手を掴む
大きく歩を踏み出しうずくまりながら転身する 相手も転身する場合は私は鷹のように相手を掴み制する


21(磕、砸、劈、撞法)

磕来还磕我要先 砸右换步左手粘
劈来迭肘桩横立 撞来乾坤手摇圈


相手が打ち込んで来たら、私はそれより先に打つ、相手が右に打ち下ろしてきたら、私は歩を変え左手を相手に接触させる
相手が打ち込んできたら、私は肘を立て横に立つ 相手がぶつかってきたら私は乾坤手で円を描く

 

22(半圈手法)

他人手法多直线 跨上半步等如闲
即或指直打斜法 再跨半步不相干


多くの人間の攻撃は直線的である だから、半歩踏み出せば攻撃は空になる
あるいは相手が斜めに打ってきても 更に半歩踏み出せば問題ない




23(整圈法)

四面敌人我在中 穿花打柳任西东
八方凭势风云变 不守呆势不守空。


周囲を敵に囲まれたとき、位置を様々に変えながらながら右に左に打つ
八方の状況に応じて変化し、硬直した無意味な動きをしてはならない。



24(心眼法)

心如大将眼如法 见景生情能制他
最忌心痴眼不准 手忙脚乱费周折。


心は将軍のようなもので目は法のようなものである  目で状況を把握し、成算があってこそ相手を制することができる
最もいけないのは目が定まらず、心が平静でないことである 手足がばたつき無意味なことをしてしまう
 

25(定眼法)

四面刀枪乱如麻 又当昏夜月无华
矮身定睛招路广 步步弯行必赢他。


暗い夜に敵に周囲を囲まれているときは、
身体をかがめ、目を凝らして、状況を把握してから、技を繰り出す 円を描く歩法をとれば必ず勝利を得ることができる。


26(接器法)

长短单双器固精 算来不如两手灵
铁掌练来兵一样 伸手偏找肱腕行。


長短単双の兵器はもとより優れているが、霊妙な両の手にはかなわない
掌が鍛えられれば兵器と一緒であり、手を伸ばし相手の腕を掴みさえすればそれで終わりだ


27(保身法)

以强胜弱不足夸 弱能胜强方是法
任他离弦箭快硬 左右磨身保无恙。


強い者が弱い者に打ち勝っても誉められたことではない 弱い者が強い者に打ち勝ってこそ技術である
相手が弦から放たれた弓のように速く強くとも 左右に磨身すれば、 問題ない

28(乱人法)

心乱先从眼上乱 千招不如掌一穿
对准鼻梁连环使 跨步制人左右还。



心が乱れるときは先に眼が乱れる 千の技も掌の一突には及ばない
左右に歩を繰り出し、鼻先に連続して穿掌を繰り出せば相手を制せるのだ 

29(開合法)

 欲合先开是一般 见开防合不二传
诈败佯输知卷土 指东打西意中含。


合わさろうとすればまず開くのが道理である 故に最上の方法は開くのを見たら合わさるのを防ぐことである
相手が退いたときは再度向かってくる 東を指して西を打つつもりなのだ 




30(定南法)

任他千手千眼快 守住中心是枉然
不到要时不伸手 伸手就要发手还。



相手の動きがいかなるものであったとしても 自分の中心を守れれば相手の動きは空になる
必要が生じなければ手を出さないし 手を伸ばしたら手を戻すのだ



31(求近法)

封闭固是护身招 躲过他人自逍遥
切忌远出尺步外 开门绕道法不牢。

身を躱すことで身を守ることはできても 相手は自由自在のままである
相手と大きく離れてはいけない 相手と離れては技を使えないのだ


32(六路法)

他人六路是空言 我之掌法六路观
动步即能八方顾 瞻前顾后自无难。


六方を見ると言っても中身のないものではどうしようもない 私の掌法は実際六方を見ている
歩を動かせば既に八方に注意が行っている 周囲に自ずと注意が行っているのだ



33(不二法)

法不准兮不妄发 发不中兮第二发
任他鬼神多灵妙 不钩魂兮亦裂牙。

不正確な技をやたらに繰り出してはいけない 命中しなかったら第二打を打つ
相手がどんなに霊妙であっても 相手の魂を抜けさせずとも、牙をそぐことはできる


34 (防滑法)

冰天雪地步难牢 前横后直记心梢
转动须用小开步 切忌挺身法打高。



氷雪のある場所では歩を安定させるのは難しい 前の歩を横に出し、後ろの歩をまっすぐに出すのを心にとめなくてはならない
歩を小さくし、身体を伸ばし、上部を打つのは避けなくてはならない

35(稳步法)

步不稳兮身必摇 脚踏实地胜千招
进取足趾退悬踵 不扣步兮莫回瞧


歩が安定していなければ身体はぐらつく 脚部がしっかりしていれば千の技に打ち勝てる
つま先から歩を進め、退くときは踵を浮かせる 扣步なしに転身してはならない



36(小步法)

回身转步必须小 步大舍身不灵脚
欲要转身迈半步 人难擒兮人不晓。



転身するときは歩は小さくてはならない 歩が大きければ、身体が安定せず、歩は敏捷性を欠く
半歩で転身すれば 相手はこちらを制することも、動きを察知することとできない

 

37(掌法)

掌法虽分上中下 上下不过是掌架
圆转自如唯中盘 高下全从此变化。



八卦掌には上盤、中盤、下盤があるが、上盤、下盤は変化にすぎない
中盤が最も自由闊達であり、上盤、下盤へはここから変化する



38(忌俯法)

低头如同眼不开 亦且身易往前栽
低头猫腰中枢死 全步全掌使不来。

頭を垂れると目を閉じているのと同じであるうえ、簡単に前にバランスを崩される
頭を垂れ、腰を曲げると中心軸がなくなる 歩も掌も使えなくなる

39(忌仰法)

紧背空胸静中求 挺胸袒腹悔难收
叠肚吸腰来不及 最怕转身不自由


背を伸ばし胸を空にして、緊張を緩める 胸をそらし、腹を出しては、どうにもならない
腹を引っ込め、腰を使おうにも時期既に遅しである 最も中止しなくてはいかないのは転身がうまく出来なくなることである



40(正身法)

全身力量在中枢 自身歪斜力不周
别看步弯身必正 发手如箭不停留。



全身の力は身体の中心から出る 身体が曲がっていては力が出ない
歩が曲がっているからといっても、身体はまっすぐでなくてならない そうして手を出せば矢のごとしに飛び出すのだ

41(補身法)

身如君王腰腿臣 君正臣强可制人
进退躲闪凭身法 若无腰腿不生神。


身体か君主であれば腰は家臣として君主に仕える 君主がしっかりしていて、家臣が強力であれば、人を制することができる
進き退き躱すのはすべて身法による もし腰と脚の動きがなければ、技はない


42(扭身法)

人来制我已贴身 此时手脚不赢人
左右吸收用扭法 化险为夷把人擒



相手が私を制しに来て私を押さえつけたら、手脚はもう効かなくなる
扭法を使って力を左右に吸収することによって、相手の攻撃を翻し、相手を制することができる

 

43(跨步侧身法)

穿梭直入势难停 先发制人显他能
若遇比手接连退 不如跨步侧身灵


織機の杼のように相手が連打をして、こちらを先に制してくるような時は
こちらは連続して退いてはならない 歩を出し、側面に入るのでなくてはならない


44(左右甩身法)

闪躲东方西又来 摇身一变甩身开
左右连环皆如此 前推后捋腰安排


東から来た攻撃を避けても西から又攻撃が来るようなときは、身体を揺らして、歩を使って転身する
左右の連打もすべてこのようにする 腰を使って、前に押し、後ろに引く

 

45(蹲步沈身法)

身高架大路上三 举手招封势所难
蹲步沉身使就下 入我机关用法宽


背が高く身体が大きい相手に対して上段を連打しても 優勢を得ることはできない
歩を進め身体を沈め下段に持ち込む 相手が下段の間合いに入れば、こちらは容易に対応できる

46(忌拿法)

八卦之手不讲拿 我拿人兮我亦差
设若人多不方便 直出直入也堪夸

 

八卦掌は関節技を使わない 関節技を使えば一人しか相手にできないし、相手に手を預けることになる
相手が多ければ関節技は更に使えない まっすぐ入って、まっすぐ退く方がまだ良いくらいだ

47(忌站法)

浑元一气走天涯 八卦真理是我家
招招不离脚变化 站住即为落地花。



すべてにおいて生涯歩き続けることである 八卦の真理が八卦門なということなのである
すべての技は脚の変化から生まれる 立ち止まっていることは地面に落ちた花のようなものである
 

48(太上法)

力要足活招要准 即或使空三不紊
招套招兮无穷极 精神法术在乎纯。

力がみなぎり、技術が的を得ていれば たとえ一つの技がはずされても、焦ることはないのだ
技は無限に変化してゆき、精神技術ともに熟達の域に達しているのである

(訳者注)これが変架子と呼ばれる段階であり、技は消滅するということである。

歌诀赞 

三十六歌意真切 练练说说不为神.

要得所传神功到 几人三年试验深.

四十八法甚难求 见招使招不自由.

十载纯功研究到 单人凭艺遨五洲


三十六歌訣は重要なことが述べられている 良くその意味をかみしめて練習し神秘化してはならない
伝えているところを自分のものにすればすばらしい功力が得られる 中には三年でその域に近づく者もいるだろう
四十八歌訣はさらに得難いものである 見聞したとしても自分のものにするのは容易でない
十年にわたって研究し、真の功夫を得ることができれば、世界どこにいっても通用する技術を身につけたと言って良い


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